たしか小学校2年生の時だった。僕は星飛雄馬のキャラクターがついた手帳を買ってもらったのだが、その手帳をどこかに落としてしまった。さんざんに探してもみつからない。意気消沈した少年河浜を見て、父はもうあきらめろという。「とうさんが魔法使いなら今ここに出してやるんだが、人間にはそんなことはできない。だからこれからはじゅうぶんに気をつけろ。」
 あくる日、家に帰ると、落としたはずの手帳があった。「かあさん、魔法だ。とうさんは魔法使いだ。」僕は叫びながら手帳を持って母の所に駆け寄った。すると母は言ったのだ。「かずくん、魔法じゃないよ。」……
「え?え?え?・・・魔法じゃない? そうか…、魔法じゃないんだ。人間だ、誰かが拾ってわざわざ届けてくれたんだ。これは魔法なんかじゃない……。」
それは、人間の優しさに出会った打ち震えるほど新鮮な感動だった。
 次の日曜日、父は手帳を送り届けてくれた初老の男性の家に連れて行ってくれ、僕は、たどたどしい字で綴った感謝の手紙を手渡し……。そう、それは、魔法なんかじゃない。人間のしわざ、人間の優しさ……。
 昨今、社会は荒れてきていると思う。私はこの日本が人の優しさを感じられる社会であり続けてほしいと思う。「人間は優しい」と教え続けることができる社会であってほしい。(写真は当時住んでいた呉市音戸町のシンボル音戸大橋)